御挨拶

人工知能学会第2種研究会分子生物情報研究会(SIGMBI)のWEBサイトにようこそ

SIGMBIでは、人工知能の観点から新しいバイオ情報学にチャレンジしています。

ヒトゲノム配列解析プロジェクトの進展により、遺伝子配列情報やタンパク質の3次元立体構造情報をはじめとした膨大な量の生体分子情報が産出され,生命現象の解明,創薬および医療に利用されるようになってきました.

さらに,「システム生物学」の台頭により,個々の生体分子のカタログ化だけでなく,生体分子群が織りなす相互作用ネットワークをシステム的観点から理解する研究が注目を集めています.システム生物学では,複雑ネットワークや連立微分方程式を用いることにより,タンパク質-タンパク質ネットワーク,遺伝子発現制御ネットワーク,代謝ネットワーク,シグナル伝達ネットワークを解明しています.

しかしながら,生命現象は膨大な数の生体分子が分子レベル,細胞レベル,器官レベル,個体レベル,環境レベルにおいて相互作用するだけでなく,反応時間もフェムト秒から年単位で変化する複雑系です.このため,システム的な解析はあくまでも,時間・空間を制限した範囲での生命現象の近似モデルでしかないという自明な限界を呈しています.また,遺伝子破壊や遺伝子ノックアウトに代表されるような摂動解析も遺伝子機能の推定には有効であっても,あくまでも遺伝子部品としての機能推定に限定されるという問題点がありました.

では,生命のような複雑系の創発を含めた全体システムを理解するにはどうしたらよいのでしょうか。近年,このような動機を背景に,合成生物学,分子ロボティクス[,分子通信の研究が注目を集めています.合成生物学では遺伝子ライブラリの組み合わせから目的の機能を実現することを目指す.分子ロボティクスでは,DNAなどの生体分子を材料として知的な動作を実現する分子機械の自己組織化による創出を目指しています.

生命の分野においては”What I cannot break, I do not understand”という格言があります.しかしながら,合成生物学や分子ロボティクス研究の台頭は,ノーベル物理学者であるRichard Feynmanによる格言”What I cannot create, I do not understand”が生命現象の解明においてもやはり王道であることを示唆しています.

本研究会では、このような問題意識に基づき、これまでのバイオ情報学やシステムバイオロジーに加え、合成生物学や分子ロボティクスを推進するための「知的分子制御」技術に焦点を当て,その課題と接近法について議論します.

小長谷明彦:知的分子制御の時代を目指して,
第25回人工知能学会全国大会(盛岡)、AIレクチャー、2011年7月
https://kaigi.org/jsai/webprogram/2011/pdf/85.pdf