第64回SIGMBI: 分子ロボティクスの今後の展望について

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科研費新学術領域研究「分子ロボティクス」は2017年3月に成功裏に終了しました。分子ロボティクスの研究は後継プロジェクトであるNEDO「分子人工筋肉」プロジェクトや領域メンバーによる科研費基盤研究を通じて着々と進められています。人工知能学会合同研究会におけるSIGMBIセッションでは、分子ロボティクスの今後の展望について、分子ロボティクス技術の深化と共に、応用実用化に向けた研究分子ロボット倫理など様々な観点から議論します。

世話人 (小長谷明彦、東工大)

2016年11月25日(土) 慶応義塾大学 矢上キャンパス12棟102号室

午前の部 9:00-12:00  分子ロボット関連技術(一般講演セッション)

開会の辞

9:00 – 9:30 小長谷明彦 (東京工業大学情報理工学院)
「分子ロボティクスの現状と今後の展望」

DNA、微小管、分子モータなどの生体分子を組み合わせてロボットのように自律的に動作する人工物を創る、という研究は2012年から開始した新学術領域研究「分子ロボティクス」で大きく進展しました。次なる目標は分子ロボットの実用化にあります。分子ロボットは電子機械式のロボットと比べ、生体分子で構成されているため生体との親和性が高いことがその特徴の一つとなっています。分子ロボットを薬のように生体に投与するためには、技術的な問題も数多く残されていますが、倫理・法律・社会的課題についても十分な議論が必要となります。本発表では、これまでの分子ロボット研究の成果と今後の方向性について述べます。

9:30 – 10:00 豊田太郎 (東京大学大学院総合文化研究科)
「ベシクル凝集体:作製法と医用技術への展開」
水中で脂質が形成する袋状二分子膜をベシクルと呼ぶ。ベシクルは粒径が数十nmから数百mまで及ぶにも関わらず,膜厚は5 nm程度であり,極めて柔軟なカプセル型の弾性体としてのみならず,構造や大きさが生体膜と類似していることから生体膜モデルとしても注目されている。近年では,医療面において,薬物送達運搬体へのベシクルの応用例が数多く報告されるようになり,重要性は益々高まっている。ベシクルの構造や構成分子に様々な機能を付加することで,複数の外部刺激に応答できるようになったり,分子ロボティクスに代表されるような演算を介した複雑な出力を与えることが可能である。私たちは,ベシクルを連結させた凝集体に着目し,外部刺激に対するベシクル凝集体の応答を明らかにすることを通じて,このカプセルの医用技術応用を目指している。
従来,ベシクル凝集体の作製法として,ベシクルを個別に作製する過程もしくは作製後に膜分子に作用する接着因子を添加してベシクルを凝集させていた。この接着因子は,ベシクルどうしが接着したり,膜どうしが融合する過程を促進できるが,常に物理/化学条件が変動する生体中でもこの機能を保持することは難しい。最近,ベシクルの作製法として油中水滴エマルションを利用した手法が開発された。これは,ベシクルの鋳型になる水滴を油相の中で作製してから,水相へ移行させてベシクルを形成するものである。私たちはこれを応用して,予め油相中で水滴を凝集させてから移行させることで,接着因子なくベシクル凝集体を作製できる手法を確立した[1]。
これまでに,リン脂質型と両親媒性高分子型の2つのベシクル凝集体を作製し,近赤外蛍光有機色素やX線CT造影剤を内包することで,腹腔鏡手術の精度向上を目的とする組織マーカーを開発した[2]。さらにこの組織マーカーを超音波利用の手術にも対応できるよう改良を行っている [3]。本発表ではこれらを紹介し,薬剤を内包したベシクル凝集体のドラッグデリバリーキャリアへの応用の可能性について議論したい。
本研究は,千葉大学フロンティア医工学センターの林 秀樹教授,大学院医学研究院の田村 裕教授,大学院融合理工学府の藤浪真紀教授との共同研究で行われたものであり,ここで謝意を表します。
[1] 豊田太郎他,オレオサイエンス,12, 77 (2012). [2] Hayashi et al., Surg. End. 29, 1445 (2014). [3] Yahagi et al., Jpn. J. Appl. Phys. 55(7S1), 07KF21 (2016).

10:00 – 10:30 池田将 (岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科)
「環境を感知して形を変える分子系」
分子の形作る1分子レベル、ナノスケール、マクロスケールなど各階層での構造と性質の相関を明らかにすることは、新たな機能を有する分子性材料の設計につながる。我々は、特定の環境に応答する化学反応性人工分子部位を生体分子に組み込む精密な分子設計に基づき生体環境でも利用できる新しい分子性材料の開発を目指している。本講演では、環境に応答して構造変化するペプチドからなるナノファイバー状分子集合体(ヒドロゲル)および核酸に関する最近の結果を報告する

10:30 – 10:45 休憩

10:45 – 11:00 梅田民樹 (神戸大学 大学院海事科学研究科)
「タンパク質によるリポソームの変形の数値シミュレーション」
リポソームは脂質2分子膜でできた人工膜小胞である.細胞や細胞小器官のモデルとして広く研究されており,分子ロボットの構成要素の一つとしても注目されている.リポソームにアクチンやチューブリン等の細胞骨格タンパク質を作用させると,細胞骨格繊維が膜を押すことにより,レモン型や平べったい形,あるいは膜チューブが突出した形など,様々な形状に変化する.また,膜を開口させ、カップ型や皿型のリポソームを形成させるタンパク質も存在する.これらの形状変化は,原理的には膜の弾性に基づく理論モデルで説明可能と考えられる.本発表では,リポソームの種々の形状変化に関する数値シミュレーションを用いた研究について報告する.

11:00 – 11:15 上野豊 (産業技術総合研究所)
「超分子構造となる生体分子の計算機モデル構築手法の開発」

筋肉等の運動タンパク質はそれらの配向した構造により、分子の発生した力で運動を実現できている。特に骨格筋の研究は歴史があり、そうした超分子構造を利用した人工筋肉は挑戦的な課題である。深く理解して応用する為に、分子グラフィックスを活用して高分子重合体を組織的に配向させるモデリングソフトウェアの開発が有用と考えられる。タンパク質立体構造データベースに基づいたタンパク質体積のポリゴンモデルで分子の配列を編集する際には衝突判定が必要なため、物理演算エンジンと呼ばれる力学計算ライブラリコードを活用してプロトタイプを開発してきた。中でもソフトウェア構築ツールluxiniaおよびGeeXLabを利用した開発例について紹介する。

11:15 – 11:30 我妻竜三(東京工業大学情報理工学院)
「千万原子数スケールの分子ロボット超分子モデリング」
本講演では、超分子モデリングによってデザインされた、従来の分子モデルではみられないスケールと外見を見せる分子人工筋肉ならびにリポソーム表面の人工チャンネルの全原子モデルを紹介します。分子人工筋肉の基本ユニット、人工サルコメア原子モデルの作成においては駆動部の分子モーター(キネシン)とDNAチューブ複合体の構築が可能となりました。DNAチューブは約400ナノメートル、表面には一定間隔で36ヶ所のキネシンの接着箇所が設けられており、120度の角度で3列の放射状に並ぶように配置されています。微小管の側面にキネシン頭部が整然と並ぶ様子が原子モデルとして再現されます。また、DNAチューブとキネシン軽鎖(尾部)の結合構造の詳細が原子モデルとしてさまざまな角度から検討可能となりました。さらに、リポソーム表面における人工チャンネルへの同様の取組みについても紹介する予定です。

11:30 – 11:45 Arif Pramudwiatmoko (東京工業大学情報理工学院)
“How to Touch and Feel Biomolecules in Virtual Reality Environment”

Virtual reality can be very useful for understanding biomolecular structure better by visualizing the three-dimensional structure of the molecule. Every atoms in a molecule actually vibrates due to the force fields that interact with it, resulting in a non-fixed conformations of the molecule. We introduce the use of haptic vibration in virtual reality environment to present these motions. A touch at an atomic object will trigger a vibration feedback to haptic devices. Larger amplitude of vibration indicates a wider range of motion, giving a sense that the touched object has more freedom in motion. This will lead to a better understanding of flexibility of molecules through virtual reality experience.

11:45 – 12:00 Gutmann Greg (東京工業大学情報理工学院)
“Scalable Multi-GPU Simulation Framework for large-scale Interactive VR over Network”

As VR has slowly become more of a main stream technology there has been a demand to utilize it for immersive and interactive simulation systems. As an interactive molecular dynamics simulation would allow for more intuitive viewing and give the ability to guide experiments. However most molecular dynamics software runs take in the order of hours to months to run, which poses a great challenge. In order to reach the simulation speeds required for an interactive simulation we have developed a coarse grained multi-GPU simulation framework. The system utilizes one computer system for computation which is connected to a gamming PC for VR rendering using 10 gigabit Ethernet. We have achieved near perfect scaling when using 10 GPU; which has enabled us to simulate large scale microtubule gliding assay problems, into the tens of millions of objects, at rates suitable for VR.

午後の部 15:00-18:00  (招待講演セッション)

分子ロボットの創薬応用への可能性について

15:00 – 15:10 来賓挨拶
関根久(NEDO「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」プロジェクトマネージャー)

15:10 – 15:40 野口洋文(琉球大学大学院医学研究科)
「糖尿病治療における膵島移植の現状と問題点」
現在、糖尿病に対する移植療法として、膵臓移植と膵島移植がある。膵島移植は、局所麻酔下にて膵臓から分離した膵島を経門脈的に注入するため、膵臓移植に比べ低侵襲である。現在までに欧米で1000例近くの移植報告がなされており、日本でも2004年より臨床膵島移植が開始されている。2011年のCollaborative Islet Transplant Registryの報告によると、欧米での膵島移植の5年インスリン離脱率は50%と膵臓単独移植の成績とほぼ同じであり、5年生存率は98%と臓器移植の成績を上回っている。しかしながら、この成績は複数回移植により達成されており、膵臓移植よりもドナーを多く必要とする点が問題として挙げられる。 発表者の野口はハーバード大学で膵島分離技術を習得したのち、京都大学所属時に膵島移植グループの主要メンバーの一人として、2004年に日本初となる心停止ドナーからの膵島移植を実施し、翌2005年には世界初となる生体膵島移植にも成功、さらに、2013年、日本初となる脳死ドナーからの膵島移植を京都大学のメンバーとともに実施した。しかしながら、本邦では心停止ドナーからの移植が18名、脳死ドナーからが9名に留まっており、脳死ドナー数をどのようにして増やすかが膵島移植の成功へのカギとなる。 脳死ドナー不足の解消には時間がかかる現状を考慮し、別の治療法を模索する動きも活発化している。再生医療研究や、血糖応答性にインスリンを分泌するインスリンポンプの開発など、世界中で競争が起こっている。本研究会では膵島移植の現状と問題点を示すとともに、最先端の糖尿病治療研究について紹介する。

15:40 – 16:10 湯川博 (名古屋大学 大学院工学研究科 生命分子工学専攻)
「量子ナノ材料によるin vivo蛍光イメージングの現状と創薬応用」
膵島移植や肝細胞移植等の細胞移植治療において、安全性と治療効果を最大限に引き出すためには移植細胞の生体内動態を正確に把握・診断する必要がある。しかし、これまでに臨床応用されている画像診断技術は組織・臓器を対象としたものがほとんどであり、細胞を対象としたイメージング診断技術の確立が求められている。 我々は、量子サイズ効果に基づく非常に優れた光学特性(超高精細、超高感度、超長寿命、省エネ、低コスト)から通信・映像(4K・8Kディスプレイ)分野において既に実用化されている量子ドットや既に肝臓のMRI造影剤として臨床応用されている優れた磁気特性を有する磁気ナノ粒子等の量子ナノ材料に注目し、移植細胞in vivo蛍光イメージング技術の構築に取り組んできた。最近では、再生医療への応用を中心に取り組み、これまで不明であった移植後の幹細胞・再生細胞の生体内動態の解明に貢献している。 本講演では、再生医療における移植幹細胞・再生細胞in vivo蛍光イメージングの最新成果に加え、量子ナノ材料によるin vivo蛍光イメージングの創薬分野への応用・発展性、殊に細胞を超える分子ロボットの創薬応用への可能性について言及したい。

16:10 – 16:40 石原司 (産業技術総合研究所)
「ついに「ロボット創薬」の時代へ:自動設計と自動合成の融合による医薬品探索の自動化」
医薬品の創出は数年に渡る歳月と幾多の試行錯誤を伴い、生産力向上は製薬産業における至上命題である。近年における機械学習の飛躍的な進化は、化合物の設計を自動化しうる。我が国の優位点である機械化技術の深化は、化合物の合成を自動化しうる。我々は、高機能化合物の創出に資する支援技術の確立に向け、ロボット創薬ー即ち、自動設計と自動合成の具現化と融合による医薬候補化合物自動探索装置ーの完成を目指している。 ・目標像:365 日24 時間稼動し、高活性化合物を自律的に探索する ・試験稼働結果:臨床試験化合物に匹敵する化合物を自動で創出した 本講演では、来るべき分子ロボティクスの創薬応用に向け、その探索の一助になりうると期待する自動探索装置の概要、および、医薬候補品探索に試験稼働して設計ならびに合成した化合物の評価結果を紹介する。 自動設計装置は、三つの機能ー合成経路・化合物設計・探索結果解析ーから構成される。起点となる化合物の合成経路を解析し、構造活性相関の探索を目的とする類縁体一群の合成に適した経路を選択する。次に、内包する論文6.5 万報が収載する200 万超の化合物の構造とその活性を情報源とし、置換基の出現頻度や構造活性相関の類似性などの自動解析にて獲得した暗黙知に基づき、新規化合物を設計する。そして、深層学習を含む機械学習による定量的構造活性相関解析を、データソースの相違を補正するデータ融合や転移学習などの高次学習系にて実行し、化合物特性を推算する。結晶解析あるいはドッキングスタディによる複合体構造が存在する場合には、これを鋳型として新規設計化合物の結合様式を推定し親和性を推算する。 自動合成装置は、自動設計装置、そして、精製装置や濃縮装置などの周辺実験機器と連携し、設計された化合物を実体化する。有史来の化学合成にて普遍的かつ不変的に実施されたバッチ反応を一新しうるフローリアクターを基幹とし、国内装置開発メーカーとの協働により、フローリアクターの弱点とされる閉塞の発生を軽減した新規開発の流路を実装する多検体合成対応型へと発展させた。 本装置の稼動により、高機能化合物探索において、人的対応に依存する探索サイクルから、自動設計と自動合成が融合した自律的探索への変革が期待される。

16:40 -17:00 休憩

17:00 – 17:30 森島圭祐 (大阪大学大学院工学研究科)
LiVEMechX・生命機械融合ウェットロボティクスが拓く超スマート社会

石油や電気の化石燃料や内燃機関等動力源に頼らず、生体や自然環境のエネルギーを取り込むことで駆動できる機械システムが実現できれば、省エネルギー効果は絶大で、IoT、AI、ヒト、自然、人工物がすべて調和した超スマートな持続可能社会を実現できる。デバイスの駆動原理が電気を用いず化学エネルギーのみによる駆動であるため、省エネルギー効果は絶大である。したがって、このような生体エネルギー変換型生命機械融合システムである、マイクロ・ナノロボット、ウェットロボティクス、分子ロボティクスといった次世代ロボットのコンセプトは、これまでのバイオナノテクノロジー、メカトロニクス、自己組織化原理、AIを統合することで、製造業だけでなく、ヘルスケア、医療、農業、海洋、環境モニタリング等、様々な産業に革新的な変化をもたらし、化学、ライフサイエンス、IT情報サービス産業を融合した、全く新しい価値を創造するビジネスモデルと新たな雇用を生み出す、バイオニック産業を創出できる。生物が発展し、進化し続けてきた超長期的な持続可能な超省エネ型ものづくりが実現でき、現在人類が直面している食料問題、人口問題、環境問題、超高齢社会問題を解決できる手段になる。このような新たな価値を創出するための方法として、生物と人工物の新しいハイブリッド化技術の確立を目指し、従来の「バイオミメティック」から「細胞・生命そのものを用いたものづくり」へのパラダイムシフトを試みてきた。生物−機械・生物−電子・生物-分子間のインターフェース技術により、様々な生物機能を人工システムに取り込むことができる。本講演では、生体のように柔らかい生命機械情報システム、ソフト&ウェットロボティクス設計論構築や医療用・環境適応マイクロマシン、組織構築、バイオアクチュエータ、ナノマシン、細胞内計測等の研究展開について紹介する。

17:30 – 18:00 吉澤剛 (大阪大学医学系研究科)
「分子ロボティクスの倫理と社会」
科学技術振興機構社会技術研究開発センター「情報技術・分子ロボティクスを対象とした議題共創のためのリアルタイム・テクノロジーアセスメントの構築」研究開発プロジェクトでは、前年度の企画調査を受け、分子ロボティクスを具体的な事例として、社会的議題に関する知見と議論の結果を現場の研究者・技術者にフィードバックする方法論について実践的研究を進めている。本発表では、メディア分析やホライズン・スキャニングを活用して抽出した分子ロボティクスに関する倫理的・法的・社会的議題を紹介するとともに、こうした議題と社会的要請について研究者が学習する機会のあり方について展望する。

閉会の辞

講演申し込み:(締切ました)

アブストラクト締切 10月25日
日本語の場合 1000字以内
英語の場合             600語以内

分子生物情報(SIG-MBI)研究会では技報は発行しておりません。ファイルにはアブストラクトと同じものをアップロードしてください。